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第1回 伽藍博物堂、春の本公演「捕われのマルガリータ」

更新日時2009.09.01

静岡県が所有している舞台芸術の専門集団静岡舞台芸術センターが毎年6月頃に開催する春の芸術祭。今年も世界中から有名カンパニーを招聘し魅力的な舞台が展開されていたのだが、同時期に静岡市内で公演が行われた小劇場系演劇も見逃せないものでした。それは演出家佐藤剛史氏が主宰する劇団伽藍博物堂による春の本公演「捕われのマルガリータ」。佐藤氏は静岡市葵区鷹匠に劇場伽藍博物堂実験室を構えて10年になる。劇場と言っても雑居ビルの1室を改装して造った50人も入れば超満員といった具合で、まさにアンダーグランド的下北的な雰囲気の劇場(ハコ)である。劇場運営が簡単でないことは想像に難くないがそうした状況の中に確実な活動を続けているのは大変評価できるのではないだろうか。春秋2回の本公演以外にもプロデュース公演や劇場貸出しなど他劇団との交流も多い。劇場を持つ劇団が少ないことを考えると静岡の演劇シーンにおける伽藍博物堂の存在は重要である。今回の公演では鷹匠演劇祭と銘打って同時に様々な企画を催した。役者と交流できる場所として劇場を解放したり、地域内のおしゃれなカフェなどで小芝居を見せたりといった具合に、そこには演劇をもっと身近に感じてもらおうという趣旨が明確に表れていた。もちろんその演劇祭のメインイベントは彼の作・演出による「捕われのマルガリータ」である。彼の作品は喜劇的でハートウォームを特徴とし、この演目もその路線を受け継いでいる。

舞台上もゆるい空気が支配的なのだが、ほのぼのとしたヒューマニズム的ドラマやところどころにちりばめられたギャグだけに目がいってしまうと愉しみは半減してしまうだろう。彼の戯曲の真の面白さは演劇への自己言及的な態度にあると感じる。日常のささいな違和感を丁寧にすくいとるように舞台が展開するのだが、それは演出家佐藤氏が演劇を続けている日々に感じる違和感なのだろう。舞台に登場する市井の人々を通して疑問と(一応の)答えが語られる。「捕われのマルガリータ」はメタ的構造により演劇への希望や限界が上手に仕組まれていて良質な作品に仕上がっていた。舞台は街のとあるバー。登場人物は4名。バーのマスター。常連客の劇団員。ワケありげな女性客。配達にくる酒屋。この演目は芝居の中で芝居をするシーンがあるのだが、つまり劇中劇という仕組みがあるのだが、そこでもっとも良い演技を魅せるのが酒屋だ。演技は素人なのに迫真の演技を魅せる。観客だけでなく他の役者3人も彼の演技に固唾をのむ。しかしそれは劇中劇だ。そこにあるリアリティとはいったいなんだろう。現実(リアル)と演劇(リアリティ)を越境し続ける演出家の希望が盲目的な熱意(ピュアネス)だとしたらナイーブすぎるだろうか。対称的なのは劇団員の女性客だ。彼女も芝居をしなければいけない場面があるのだがこれが三文芝居なのだ。演劇のプロとして登場しているはずなのに何とも役立たずである。彼女を演劇自身と見立てるとすれば演劇の無力感を象徴していると言えなくもない。
物語の中心にいるワケありげな女性客。最後は自分の道を自ら決めて歩き出す。その背中を押すのがマスターの役目。彼女がバーの扉を開けて外の世界へ歩き出すのは象徴的だ。演劇も外の世界と繋がってこそ有効なのだ。このとき彼女と演劇は同一だろう。演出家は演劇を女性客に重ね合わせて外に世界に向かわせた。演劇を信じて改めて挑戦が始まるのだ。

演劇というものはどんな物語を舞台で上演するにせよ演劇自体を常に問われている。それに自覚的な演出家こそが魅力的な舞台を創りえるのだろう。客席数50人にも満たない小さな劇場の中で演劇の大きな可能性と真摯に向かい合うそんな演劇人にエールを送り続けていたい。

プロフィール

柚木康裕 オルタナティブスペース・スノドカフェ代表。
静岡市清水区にクリエイティブを通して様々な人が交わるサロン的空間スノドカフェを3年前に立ち上げる。現在アートマネージメントを東京にて定期的に学びながら、展覧会のディレクションや社会人のためのアート系講座の企画・運営を行う。

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