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第8回 絡繰機械's 第9回公演『DUAL』

更新日時2011.08.08

絡繰機械's(「カラクリマシーンズ」と読む)は、脚本・演出を担当する唐津匠の下に、実力ある俳優たちが参集して結成された、浜松を拠点として活動している劇団である。シリアスとコミカルとアクションを激しく往来するスピーディな演技を展開し、骨太な世界を描き出す独自の芝居作りで人気を集めている。(財)浜松市文化振興財団が毎秋開催している「はままつ演劇人形劇フェスティバル」でも、レギュラー参加の劇団としてフェスティバルを盛り上げている。2009年の第6回公演『visionaries ~種を蒔く人~』、第7回公演『boundaries ~花が咲く人~』、2010年の第8回公演『stories ~水を遣る人~』は、『Land of Confusion』と題されたシリーズを構成する3部作で、終末を迎えた世界に生き続ける人々の物語を、まさしく叙事詩を謳い上げるように演じてみせた。決して大勢が登場するわけではないし、大劇場を使っているわけでもない。しかし、十余名の俳優たちが舞台狭しと駆け回り、光と音が飛び交う中で、スケールの大きな物語世界を出現させる技量は、この集団の蓄積を感じさせる。この3部作上演は、地方で活動する劇団の枠を超えた快挙と言ってよいだろう。

3部作がメインディッシュだとすれば、2011年3月26・27日に、劇団からっかぜアトリエで上演された第9回公演『DUAL』は、箸休めといったところか。しかしこの箸休めは、肩の力の抜けた洒脱な味わいがあって、好感の持てる内容だった。紹介したい。

タイトル通り2篇の芝居からなるオムニバスである。前半は『ナイフ投げ師の犯罪』。志賀直哉『范の犯罪』とスティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』からインスパイアされた物語。全体は法廷劇の体裁をとっている。友人の子を身ごもり、その子を死に至らしめたとおぼしき妻ローラ(伊藤彩希)。その妻への愛を失い、手慣れていたはずのナイフ投げの芸によって、妻を殺してしまった夫ヘンシュ(大舘顕大/フリー)。果たしてヘンシュに殺意は存在していたのか否か? 有能な女性検察官マルグリット(伊藤彩希の2役)と、ライバルである弁護士ヤン(森歩)による丁々発止の頭脳戦によって、事件の本質が徐々に露になるが、つまるところ殺意の有無は被告人自身にも「わからない」。検察官と弁護士の双方から判決を下すよう迫られた裁判長(仮屋太地/演劇集団浜松キッド)は、自身もまた、ヘンシュのナイフの的となり、怪我を負い血を流すことを選択した、ナイフ投げの一観客であったことを告白する。「裁判長ではなく、トーマスと呼んで下さい。」かくして全てが宙吊りにされて幕となる。

後半は『通行のルール』。伊坂幸太郎『週末のフール』と松本俊一『ガードマンのお仕事』からインスパイアされた物語。あと3年で世界が終わるという状況の下、工事など行われていない工事現場で、淡々と交通誘導に従事するガードマンの高橋(松本俊一)と須藤(狐野利典/劇団砂喰社)。そこに現れた女・康子(中西祥子)は、国家公務員に合格した優等生の自分と引き比べ、兄の和也(狐野利典の2役)の出来の悪さを罵倒し続けた父(松本俊一の2役)に憤り、家を出たという過去の持ち主であった。そして和也は自殺。兄が死んだのは父のせいなのか。兄を庇った自分の奢りも一因だったのか……。10年ぶりに父が会いたがっていると聞いて実家に戻ろうとした康子は、工事現場の通行止めに行く手を阻まれ、帰省を諦める。だが高橋は、自分たちを倒して先へ行け、とけしかける。思い直した康子は気持ちよく2人を倒し、改めて両親と再会し、兄の死に向き合う覚悟を固める――。

前半はシリアスなタッチ、後半はコミカルなタッチという点で対照的だが、両方とも、人生に立ち往生する人々が、互いの思いをぶつけあいながら、過去に起きた決定的な事件の真因を探り、未来への一歩を踏み出すという構成が共通している。現在と過去を巧みに往き来する唐津のドラマツルギーは見事で、俳優たちのメリハリのよい演技がこれに応える。事件の真相はもとより明らかにしようがないものの、目をそむけていた過去をなんとか直視して、壊れてしまった人間関係に自分なりの決着をつけようとする人間の、いじましさが浮かび上がるという次第だ。

この劇団の表現のスタイルは発展途上であり、荒削りではあるものの、逃げも隠れもせず覚悟を固めた人間の姿が、ネガとポジの両面から示される趣向にはグッときた。絡繰機械’sはローカリティなどさして意識していないかもしれないが、地方で生きることを選択した者の胸には、切実に迫り来るドラマであった。その潔い精神は、やはり遠州気質と評したくなるところがある。非日常的な設定を用いながら、そこに日常生活のリアリティを託す絡繰機械'sの芝居に、全ての静岡県民は括目せよ!

プロフィール

大岡淳
(財)静岡県舞台芸術センター(SPAC)文芸部スタッフ、ふじのくに芸術祭企画委員、はままつ演劇人形劇フェスティバル企画委員、月見の里学遊館舞台芸術アドバイザー、静岡文化芸術大学非常勤講師。
演出家、劇作家、批評家、パフォーマーとして活動しながら、地域から発信する新しいエンタテインメントを探求している。

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