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第16回 演劇『展覧会の客』静岡あくとねっと

更新日時2013.03.07

土曜日夜9時。本日3回目の公演が始まった。
会場は満員のお客様。といってもたかだか30名ほどであるが。

私の運営するオルタナティブスペース・スノドカフェは、ギャラリーや勉強会、ワークショップ、音楽ライブなど多様なイベントが開催されているが、なにぶん小さな空間なので演劇ともなればその程度で超大入りといった具合である。1回に観劇できる人は限られるため、苦肉の策とでもいうべきか一日3公演というハードワークで観客人数を伸ばそうと試みたのだった。

翌日の日曜日は2公演をこなした。週末の2日間で5公演(土曜日は午前中にゲネもおこなっているので実質6回!)という無謀ともいえるプランをやってのけたのは、静岡の市民演劇サークル「静岡あくとねっと」。静岡市で春風館という学習塾を営む望月夏哉氏が2009年秋に立ち上げた。東京で役者として活動してきた望月氏が静岡でもその経験を共有していきたいと考え、演劇関係者に声をかけたのが始まり。「静岡あくとねっと」は演技の勉強会や演劇に関する情報交換のための定期的な集まりを主な活動としているが、これまで3本の演劇を上演してきた。実験公演「夢」、「魔法つかいのデシ」そして今回の「展覧会の客」。おおよそ劇団と名乗ってもよい活動をしているのだが、そう呼ばないのは個人の活動を尊重したいという望月氏の考えによる。劇団に縛られずに自由に活動することで役者としてのスキルを磨いて欲しいとのこと。これは制作する側にもいえることで、コアメンバーはいるものの美術、衣装、音響、照明などその時々に依頼をしてチームを組んでいる。つまり「静岡あくとねっと」はいわゆるプロデュース公演型の組織である。

今風にいえばゆるい繋がりによる演劇集団とでもなるだろうか。それは現代に生きる忙しい社会人にあった組織の形態ともいえるだろう。と同時に観客もまた忙しい社会人であることを再認識したのが今回の公演「展覧会の客」だった。そう気付かせたのは土曜日夜9時開始だった通称「プレミアムナイト公演」である。

土曜日の夜9時ごろに映画館へ出掛けた最後はいつだったか。若かりしころは七間町の映画街へよく通った。オールナイトと呼ばれた時間帯にオリオン座の入り口をくぐる時の高揚感、映画が始まる時の興奮は、昼間とは違う映画体験として記憶に残っている。そんなことを思い出させたのがこの「プレミアムナイト公演」だった。先に行われた午後と夕方の2公演とはまったく違う雰囲気が漂っていたのはなぜだろうか。夜8時30分開場が始まると観客もなぜかワクワクした表情で入場してくる。実は役者たちのテンションも上がっていた。それはプレミアムナイト公演でしか見られない演出のせいでもあったが、やはり普段上演しない時間帯に演技をするという高揚感だったと思う。こうした非日常的な状況が狭い会場に集まった人達の熱気を上げていく。それはあくまでも少数の人間が共有しているのに過ぎないが、あの時の映画館の様子をはっきりと覚えているように各自にとって忘れがたい経験になるに違いない。

実はチケット販売でこの時間帯は売れないのではないだろうかと心配をしていたのだが、いざ予約を取り出すと真っ先にこの時間帯がうまっていった。結果的にもっとも多い集客となったのがこの回である。夜9時から「でも」演劇を観てくれる人がいるというより、夜9時から「なら」演劇を観られる人がいる事実は興味深い。事実早い開演時間では無理だが夜なら見に行くことができるという声は多かった。あるいは土日の予定が立たないがその時間なら何とか行けそうだという方もいた。日本の公立劇場では夜間の公演を行うのは容易ではないだろうから、あえてこの時間に公演を行うことは差別化を図れる有意義な試みだと感じた。別の機会だったが、平日から週末に掛けて演劇を連日公演したときもどちらかというと平日のお客様の入りがよかったことも示唆に富む。以外な結果に見えて、それは今の社会人の生活を明確に表しているのかもしれない。

忙しくてもタイミングさせ合えば曜日時間問わず演劇を観たいという人はいるのだ。ただしそのボリュームはいまはまだ知れている。ゆえにこれらは小回りのきく演劇集団やスノドカフェのような小さな場所にとって可能性となるだろう。平日の仕事帰りや週末の夜間に1時間程度の観劇体験でリフレッシュしてもらうなど、大きな組織では開催が難しいことを積極的に取り組んでいきたいものだ。そうしてお互いに補完しつつ静岡の演劇が多様性を増していけば観客にとっても喜ばしいことだろう。

プロフィール

柚木康裕 オルタナティブスペース・スノドカフェ代表。
静岡発の芸術批評誌「DARA DA MONDE」(だらだもんで)発行人。地域から発信する芸術/アートを支援する活動を行う。アートの実践的知識を得るためにアート系NPO法人「アーツイニシアティヴトウキョウ」で学ぶ。現在、他団体との恊働も増え活動の幅を広げている。

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