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第19回 ラッパの音も、リッパな音楽

更新日時2014.09.12

「浜松市は“音楽の街”だ」という言いまわしには、どうしても抵抗を感じてしまう。「浜松市は“楽器(製造)の街”だ」ならよく理解できるのだが、“音楽の街”という表現は、どうもシークレットブーツで底上げをしているようで、正直なところ、恥ずかしい(と、小声でいう音楽関係者は実は多い)。実際、音楽関係のイベントは盛んであるが、他の地方都市とくらべてダントツに多いというわけでもなく、“音楽の街”キャンペーンと税金の投入によって、なんとか支えられているようにみえなくもない。

しかし、本当に一般市民に根づいている音楽文化が、浜松にはある。それは、ピアノではなく、ラッパである。

幕末に西洋から日本にやってきたラッパ〔Bugle〕は、明治期に軍隊や消防で用いられ、浜松では「凧揚げ」や「練り」を囃したてる道具として土着化した。演奏されているのは、旧軍隊に由来する行進曲をデフォルメした曲で、もはや「浜松まつりの音楽」として、しっかりと定着している。

浜松まつりに参加する約170団体のほとんどはラッパ手を抱えていて、数十名からなる「ラッパ隊」を編成するところも少なくない。正確な実数は不明だが、お祭り当日に凧揚げ会場や街で演奏しているラッパ手は、確実に千人をこえるだろう(あるテレビ番組の調査では「浜松に住む静岡県民」の「23%」がラッパを吹けるとしていたが、これはいささかオーバーか)。

このラッパ文化に魅せられた私は、約10年前からずっと浜松まつりの―とりわけ中区早出町のラッパ隊のお世話になって―調査をしてきた。現場を観察し、人々に話に耳を傾けると、浜松のラッパ文化は、行政が推奨しようとしている“音楽の街”とは無関係であることがわかってきた。だからこそ、吹奏楽やオーケストラのような「高級音楽」の関係者からは白眼視されることもある。たしかに、音程があっていなかったり、演奏法がデタラメだったりするのだが、それはあくまでも「西洋音楽」を基準にする限りの話であって、これを「自分たちのオリジナルな音楽文化」としてしまえば、そんなことはどうでもよい。

異文化を自分たちの側に引き寄せる行為に対して、「下手だ」「邪道だ」「悪趣味だ」と罵りたくなる気持ちも分からなくはない。だが、その前に世界の音楽史のお勉強をすることをオススメしたい。たとえば、かつてアメリカ南部で誕生した「オリジナルな音楽文化」に対して、北部の上流階級に属する方々が同じような罵詈雑言を吐いた。しかし、その音楽文化は「ジャズ」と呼ばれて、20世紀を魅了した。

異文化の音楽芸術を直輸入して、理解を深めることは重要である。だが、異文化を自分たちの側に引き寄せ、身近であるがために、かえって文化とは認識されていないような「文化」を再評価することも、同じように重要ではないだろうか。静岡県の潜在的可能性に期待したい。

(2014年9月)

プロフィール

奥中康人(おくなかやすと)静岡文化芸術大学准教授
専門は、日本における西洋音楽を中心とした歴史研究。現在はラッパだけでなく、遠州地方の大念仏や地歌舞伎にも関心を広げている。著書に『和洋折衷音楽史』(春秋社 2014)、『幕末鼓笛隊』(大阪大学出版会 2012)、『国家と音楽 伊澤修二がめざした日本近代』(春秋社 2008)など。

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