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第20回 ジョルジョ・デ・キリコの創造の軌跡、秘密を探る

更新日時2014.10.14

浜松市美術館「ジョルジョ・デ・キリコ」展

マネキンのような人物、非日常の風景、幻想的な色彩。ピカソが最も恐れたと言われる20世紀の重要な画家、ジョルジョ・デ・キリコの作品は、多くの謎に包まれている。

まず、彼の生み出した「形而上絵画」とは何か。哲学用語で、「形而上学」とは、感覚または経験を超え出た世界を真実在とし、その世界の普遍的な原理について理性的な思惟によって認識しようとする学問ないし哲学の一分野である。もともと「形而上」という言葉には、英語の「メタ(meta)」という意味があり、ある物事を「超えた」「高次な」などと言った意味がある。つまり、「形而上絵画」とは、「絵画を超えた絵画」、「高次の絵画」であるが、デ・キリコの作品に即して言えば、ありふれた日常の裏側に潜む、まったく新しい未知の精神世界を画面に出現させようとしたものであり、その斬新な思想と手法は、後のシュルレアリスムに大きな影響を与えた。

本展覧会は、パリ市立近代美術館に寄贈された未亡人イザベッラ・デ・キリコの旧蔵品を中心に、イタリアの美術館、個人など、日本国内に所蔵されている作品から、作家の各時代を代表する作品を100余点展示し、ジョルジョ・デ・キリコの画業を紹介する久々の回顧展である。私は「ジョルジョ・デ・キリコ」展を学生時代に観た経験があり、それは、もう20年以上も前のことである。その時の記憶は、定かではないが、やはり、デ・キリコの象徴的作品「形而上絵画」を中心に、マネキンのような形態をした人物像が、展示作品の中心であったと思う。しかし、今回の展覧会は、そうした「形而上絵画」のプロローグとも言うべき作品が、多く紹介されており、ある意味、デ・キリコの創造の軌跡、秘密を探ることができる。なかでも、興味深いのは、第二章「古典主義への回帰」と第三章「ネオ・バロック時代-「最良の画家」としてのデ・キリコ」である。例えば、《剣闘士の休息》(1968-69年、油彩、カンヴァス、パリ市立近代美術館、カタログ番号7)では、ピカソの古典回帰を思わせる、どっしりとした体躯の男性像が、画面の中心に腰を下ろしている。床に置かれた武具から、かろうじて、彼が剣闘士であることが想像できる。一方、その背後には、逞しい筋肉の人物像が配されているが、彼の顔はデ・キリコの象徴とも言える無機質で匿名な「マネキン」である。すなわち、ここには、古典回帰とともに、ロマン主義的な気質も漂っており、さらに後に彼の代名詞となる「マネキン」、すなわち「形而上絵画」が同居している。まさに過渡期の作品であり、それは彼の創造の軌跡でもある。

また《赤と黄色の布をつけた座る裸婦》(油彩、カンヴァス パリ市立近代美術館、カタログ番号60)では、浜辺で椅子に腰掛け背中を向けて座る妻イザベッラ・ファーを描いている。背景の海辺は、画家が1920年代以降描いてきた、馬のいる古代ギリシアの海岸風景を想起させるが、妻のふくよかな裸体表現や雲や布に施されたハイライトの生き生きとした描線からは、ティツィアーノやルーベンスの影響が見受けられる。しかし、それでいて、画面全体からは、海辺と裸婦という、ありそうであり得ない非日常性が感じられ、この作品にも、デ・キリコの「形而上絵画」への意思がうかがえる。

このように、本展覧会は、デ・キリコの「形而上絵画」が、どのように創造されたのかという軌跡を、実作品によって、視覚的に体感できるものである。この機会に、一人の画家の創造の秘密を探ってみてはいかがかと思う。

(2014年10月)

プロフィール

泰井良(たいいりょう)静岡県立美術館上席学芸員
昭和47年、神戸市生まれ。関西大学文学部哲学科美学・美術史専攻卒業後、同大学院に進学。平成8年、静岡県立美術館学芸員として勤務。平成19年度~20年度、財団法人地域創造に派遣、平成25年度、広島県立美術館に派遣。
専門は、近代美術史、主に明治期の近代洋画、ロダンおよび美術館評価、ミュージアム・マネージメント。 企画・担当した展覧会は、「もうひとつの明治美術」展、「ロダン創造の秘密~白と黒の新しい世界~展」など。現在、財団法人地域創造公立美術館活性化事業企画検討委員、全国美術館会議幹事。

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