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第24回 グランシップ世界のこども劇場2015 鑑賞レビュー

更新日時2015.08.24

「サティさん」ザ・アトフリシアター(ポーランド)、「石・棒・折れた骨~Mr.バンクの魔法のガラクタ~」バンクパペッツ(カナダ+オーストラリア)を鑑賞して

今回の公演を鑑賞して、ザ・アトフリシアター、バンクパペッツ共に共通して感じられたのは、“子どもの無邪気さ”と“遊び”のファクターを援用した構造観である。ザ・アトフリシアターではピアノを楽器である前に一つの不可解な物体として捉え、その即物的な要素(ピアノ本体の外壁、ピアノ線)と同次元のコードで鍵盤に身体が出会うところから“時”が動き出す。さらにピアノに触れることによって、生じるかすかな音素は演者の感覚を刺激しながら次々に引き出すきっかけとなっている。加えて柔らかかつ軽やかなピアノ旋律のエリック・サティの多用される繰り返しが、小気味良く二人の演者の、あたかもその場で思い付いたような仕草と先の見えない物語へ続く不安定な時間感覚が、その様子を取り囲んで見ている子どもたちにも感染していく。可塑性と可変性に富む“紙”( 絞り込んだ色彩をベースにしている)はその浮遊するような雰囲気を視覚的あるいは聴覚的に生み出すためのとても効果的なアイテムとして機能しており、その中から突然出現する鮮やかな黄色と赤色の大小の船がそれまでのカオティックな流れを一気に塗り替え、大海原に周辺の環境を変質させる。思い思いのイメージを描いていた子どもたちはひとたび、彼らの脳の中で一定のイメージが共有されると、会場全体に一体感が生み出されていく。最後にさっきまで船と思い込んでいたものが、同時に帽子を意味するものにもなりうるという記号的遊び感覚も見事な構成の中で展開されていた。

一方、バンクパペッツは端的に言ってしまえば影絵を使ったパフォーマンスである。しかし大人の私でも、終始怪しげな演者が仕掛ける妄想とも思える世界につい引き込まれてしまう魅力があった。理由は二つあるが、その一つは“影”とはモノの似姿という観念が一般的にあるが、彼のそれはスクリーン(紐に止めたシーツ)に投影された“影”と相似することはなく、むしろまったく想像できない実態が光源を遮っているのだ。まずその意外性に注目する瞬間がある。もう一つの理由は、展開の不可解さである。その象徴的なシーンは少しショッキングであるが、影絵に登場するパペットの頭部を演者が開き、中から脳を取り出す場面である。観者はしだいに彼の妄想の世界に自分の脳が侵されていく様子を自覚しながらも、それに逆らうことを拒み続ける自分に気付く。乳幼児期の発達について語られる時、肛門期(2歳~4歳)という特定の発達段階を知ることになる。これは乳幼児が避けて通ることのできない排泄行為というとても重要で厄介な出来事と密接な関係を持つが、彼らはこの排泄行為から自立した時、外化された羞恥心や排せつ物または、性差について日常生活の中で他の何よりも気になる事象となる。一見、荒唐無稽に感じられる演者の展開は些細なエピソード(肛門期に関わる事例)をきっかけとして実に自然な流れの中で進行していた。それは周到に仕組まれ、乳幼児の発達の理解から引き出されたものであることが分かる。

プロフィール

長橋秀樹
1963年  静岡県沼津市に生まれる
1988年  東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1990年  同大学院美術研究科修士課程修了
1997~98年 五島記念文化賞美術新人賞により渡米
現 在   常葉大学(教育学部) 准教授

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