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第1回 神沢のおくない

更新日時2010.01.22

学校が地域の民俗芸能に取り組む

伝える 本県の各地に伝承されている民俗芸能は、古代、中世、近世とその芸能が派生した時代もさまざまで実に多様です。また、伊豆には伊豆の、駿河には駿河の、遠江には遠江ならではの芸能も伝承されている。ところが民俗芸能の面白さでしょうか。とにかくもこの多様で地域に根ざした民族芸能が、途絶えることなく今日まで営々と伝えてきたのには驚くほかありません。

ところが近年、山間部を中心に過疎化が進み、その芸能の担い手を欠き存続が危ぶまれているところが少なくありません。五百年もの間継承してきた芸能が、この時代になって途絶えようとしているのです。
その方策のひとつとして、地域の学校が民俗芸能を授業に取り入れるところが出てきたのです。これが伝承母体の後継者養成に即つながるかは未知数ながらも、小学生、中学生、高校生が地域の民俗芸能に取り組み、営々と伝えてきたその意味を実感することは、ここに暮らしの歴史を刻んだ先人たちへの想いを起こし、その想いは、郷土愛にきっとつながるはずです。

御神楽(順の舞) 親から子へ、子から孫へと伝えてきた民俗芸能には、なかなか簡単に習得できるものばかりではありません。むしろ、高度で難しい芸能の方が多いのです。それを長い年月をかけて習得するのは、能楽者や歌舞伎役者など専門の人々の世界だけではないのです。年齢に沿っての修練があり習得してゆくものがあるわけです。しかし、その修練のさ中、先人たちがこれを同じように習得したことへの驚きと尊敬の年は大きく膨らむはずです。

四十年ぶりに復活させた神沢のおくない

笛の調子を合わせる女子生徒 二俣で天竜川と合流する阿多古川は、鮎の溯上する清流で知られ、鮎最中の名物が生まれたほどです。その清流で川遊びする子どもたちを、夏の風物詩として毎年のようにマスコミが取り上げています。この阿多古川沿いの道は、水源地に近い峠で愛知県と隣接し、海と山間部を繋ぐ塩の道のひとつだったことが実感されます。休日にはこの山間の道をオートバイでツーリングするグループも多いのですが、舗装されない山道と交差ネットされるのが魅力のようです。ところでこの阿多古川流域には、中世の芸能と近世の芸能を伝える村が点在しています。懐山と神沢には、中世以来の田楽系の芸能が伝えられてきました。この芸能は峰越えする浜松市北区引佐町の寺野、愛知県新城市(旧鳳来町)の黒沢などと同系のもので、修正会のオコナイとも呼ばれます。オコナイとは年の初め正月に、御堂の本尊に額ずき一年の罪状を悔過し、新たなる年の平穏と豊作を芸能をもって祈願するものです。芸能は結界をテーマとする剣や矛の舞などのほか、稲作過程を演じ、今年もかくあらんとする田遊び、また千秋万歳、田楽舞などで構成される総合芸能です。

獅子頭 この阿多古川流域と都田川流域に伝承されてきた御堂のオコナイは、日送りにおこなわれていました。浜松市北区引佐町寺野の観音堂は正月三日に行われ、三日堂と呼ばれていました。四日堂の黒沢、懐山、五日堂の神沢、六日堂の黒沢、七日堂の滝沢、八日堂の川名などの呼び方でそれぞれの集落の御堂を○日堂と呼ぶのは、その日にオコナイを施行していたからです。これはおそらく修正会の司祭者、導師のめぐる順序だったと考えられます。中心となる寺院から学僧導師を待って、御堂のオコナイが開始されたわけです。

神沢村は、上神沢、西神沢、峰神沢、六郎沢で構成され、オコナイは、西神沢の阿弥陀堂でおこなわれてきました。ところが五日堂と呼ばれていた万福寺阿弥陀堂のオコナイは、四十年あまりも途絶えていました。ミヤゴ(宮子・宮講)と呼ぶ家十四戸が世襲で伝えてきたこともあるのですが、みな若者が町に出て行ってしまったからといいます。残された村人は、それでも正月五日には阿弥陀堂に集まり「メンサイ」と呼ぶ、お面さまを取り出して拭き清める儀式だけは行ってきました。

鬼の舞 そんな中、昭和五十年(一九七五)に地元の熊中学にある郷土研究クラブが「神沢のおくない(オコナイ)」の継承活動をはじめたのです。昭和三十年ごろに途絶えたのですから、二十年ぶりのことでした。地区の古老たちが指導しました。「順の舞」「剣の舞」などを習得するのでしたが、増え・太鼓・すりがねなどの楽器もあります。なかなか習得するのには時間がかかります。それでもやがて上級生が下級生に私道できるほどになったのです。しかし、過疎化には歯止めがかかりません。

獅子の舞 過疎化が進む阿多古川流域では平成十七年に、熊学校、上阿多古中学、下阿多古中学と二俣中学を新たに青竜中学として統合しました。そのとき、総合的な学習の時間(総合学習)に、地域の伝統芸能、「懐山のおくない」「神沢のおくない」「遠州大念仏」を取り入れ体験学習をすることになったのです。中学二年生は全員この三つの中からひとつを選び、その修練に取り組まなければならないのが、青竜中学の総合学習の取り決めです。当然、「神沢のおくない(オコナイ)」は、いままでどおりに継続され、三年生が二年生に私道するやりかたを踏襲しました。

地元出身の工芸作家から十二のお面さまが寄贈される

火の玉面をつける(矛の舞) 神沢のおくないには十二面のお面さまが伝えられてきました。このお面さまを子どものころに見た、石野重利さん(浜松市内在住)は、五十歳をきっかけにはじめた面彫りに、この生まれ育った神沢のおくないの面を復刻したのです。するとこれを聞きつけた地区の古老が、子ども用のお面さまを掘ってくれというのです。阿弥陀堂に伝わる鬼や獅子頭のお面さまは重くて、とても子供には使いきれないからです。そこで、石野さんは子どもたちのために復刻制作に取り組みました。また、演目は三十四演目で構成されているのですが、残された文書資料や記録、証言などをもとに、その中から九演目の装束と着付け図、所作の図解、音符なども用意しました。

これらがすべて完成し、そのお面さまと装束をつけて、今年一月五日に、公民館風になった阿弥陀堂(大正九年ごろ倒壊)で、男子生徒九名、女子生徒十二名が見事に「順の舞」「両剣」「獅子」「鬼」「矛」「しずめの翁」を演じました。生徒たちの達成感に満ちた笑顔が印象的でした。
文部省で示す「総合的な学習の時間」に、この郷土の民俗芸能の体験学習があてはまるかは異論もあるようですが、郷土に学ぶ、郷土を体感する授業があってもいいのではないでしょうか。地元の学校教育と切り離せない、わが国の伝統芸能の継承の形、方法があるはずです。

お面さまを復刻した石野重利さん
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