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第6回 日向(ひなた)の七草祭

更新日時2011.07.29

静岡市内でも藁科川上流の日向旧暦の1月7日、凍てついた冬の夜に、日向を見下ろす福田寺観音堂で七草祭が執り行われました。
福田寺へと続く坂道にはポッポッと堤燈が灯り、紅白の幕で囲まれた福田寺も橙色の光をほんわりと放っています。境内には大勢の人が集まり、今か今かとお祭りが始まるのを待ち構えています。湯気だったお蕎麦を温かそうにほおばる人、久しぶりの再会に喜びあう人、手に大きなカメラを持った人も沢山います。どうやらカメラマン達の一番のお目当ては、この七草祭を特徴づけている「駒(こま)んず」のようです。

午前中に行われる「日の出の祈祷」 静岡市を流れる藁科川の上流に平らかに広がる山里、日向。山あいでは珍しく陽がさんさんと当たり、旧安倍郡大川村の中心地として栄えてきました。七草祭は古来からこの地に受け継がれてきたお祭りで、昭和55年には県指定無形民俗文化財に指定されました。残念ながら日向には古文書が残っておらず、いつ頃から始まったのかはっきりとはわかりませんが、少なくとも数百年は経っているようです。七草祭は田遊び系統の神事で、稲の豊作を祈るものですが、かつては養蚕も盛んで、「駒んず」は養蚕の繁栄を祈願するものとして伝えられてきました。口伝で継承される詞章があり、養蚕にかかわる祝言が詠われています。大変ありがたい詞章で、昔はお祭りが終わった後は歌うことを禁じられていたほどです。舞には山鳥と駒が登場し、蚕との深い結びつきをうかがえます。その山鳥と駒役を演じるのは日向の小学生です。

夕方から行われる「夜祭り」、山鳥や馬が登場する「駒んず」の一場面 山鳥や馬にふんした地元の子ども達 夜祭りでは、笛を吹く子ども達の姿も

日向の集会場で行われる練習の様子 1年1年が数百年となり、今日まで伝えられてきた七草祭。今はこの「駒んず」を通して子ども達に伝えられています。日向に生まれた子ども達は、小学2、3年生の頃から参加し、小学6年生頃まで続けます。今年の山鳥は3年生の佐藤一海君と海野航平君、駒は4年生の栗下航大君と佐藤龍生君が担当しました。初めての子もいれば、2回目、3回目の子もいます。
舞の練習は今年の1月から日向の集会所で行われました。子ども達はとにかく元気がよく、みんなで輪になり無邪気にはしゃいでいましたが、「駒んず」の練習になると顔つきが変りました。詞章に真剣に目を通し、わからないことは何でも質問します。出番になると、笹竹をもつ大人達の輪の中を、上半身を前に倒した状態で廻っていきます。七草祭は楽しいようで、子ども達は続ける意欲を見せていました。

左から星野桂介君、藤森地場幸(つばさ)君 並んで笛を練習しているのは、6年生の星野桂介君、そして中学生の藤森地場幸(つばさ)君です。大先輩の芳澤茂夫さんの指の動きを見ながら何度も練習します。地場幸君は日向で唯一の中学生で、小学生の頃から山鳥や駒を経験してきました。多くの子ども達は中学生になると七草祭から遠のいてしまいますが、地場幸君は七草祭を誇りに思い、茂夫さんをはじめ、大人の方々を師匠として、練習に励んでいます。初めて七草祭に参加した時には、真冬の川は寒いし、夜も寒いし、2度とやりたくない、と思ったようです。しかし、回を重ねるにつれて、自分が県指定無形民俗文化財の一部になっていることを意識し始め、今では、ずっとやっていきたい、そして広めていきたい、そう感じているようです。バトミントン部部長で生徒会長の地場幸君は中学校の人気者です。七草祭でも、小学生達のお兄ちゃんのような存在で、みんなを引っ張っています。
「地場幸君みたいな子がいるとみんなついてきてくれるんだよなぁ。」地元の方はこう語りました。

日向地区の地元にあたる大川小学校

大川小学校も七草祭には全面的に協力しています。本番当日の昼間に行う水垢離の時には、授業を抜けることをもちろん認め、夜祭りにも先生や生徒みんなが来て、駒んずの子ども達を応援しました。地域のお祭りには是非小学生を参加させてほしい、と校長先生からの頼もしいお言葉。お祭りの翌日には全児童で掃除のお手伝いをしました。
しかし、日向も大川地区でも大きな問題があります。少子化が深刻で、あと10年したら入学生は0人の年が続く予定です。もう少し先の七草祭の存続が危ぶまれます。

舞台に上がる者は藁科川にて禊を行わなければなりません

禊の様子をあたたかく見守る地元の人々 それでは、これまで七草祭はどのように受け継がれてきたのでしょうか。

今のように練習日を設けるようになったのは、昭和30年代以降のことで、それ以前は気の合う仲間が個々に集まり、気安い家で練習していました。
明治33年生まれの佐藤助廣さんの父は太鼓も舞もやる人で、家には道具が一式そろっていました。そのため、助廣さんが幼い頃は、仲間が5,6人集まって、毎晩のように夜の10時頃まで練習していたといいます。テレビも車も何もない時代、練習が終わってからの晩酌は、集う人達の一番の楽しみだったといいます。子ども達はその様子を見ているので、自然と七草祭の舞や笛が身についていったようです。
お祭りも今では考えられないほど賑やかで、村中から人が集まりました。奉納以外にも演芸があり、芝居や歌などで盛り上がったようです。若い男女もこぞって集い、ここで結ばれ、結婚したカップルも沢山いるといいます。「茶の実拾い」とはこの日向の言葉。七草祭の時に、茶畑で男女が愛を育むところから名付けられました。「大きな袋を持っていけよー。」と冗談を言いあったようです。七草祭を通して地域は強く繋がっていました。
戦後、若者達が村を離れ、山鳥と駒役を希望する人が少なくなると、その役を中学生に依頼するようになりました。それが小学生の役目となったのは近年のことです。子ども達はここで七草祭を体感し、身に沁みこませます。その一生懸命な姿勢と愛らしさが練習の場をなごませています。

この日、七草祭典主事を務めたのは森下勝美さん、介添えは内野弘さん 田遊びの詞章「数え文」を奉唱し、七草祭の七草祭典主事を務める主掌は、七草祭にとってとても重要な役です。現在はこの主掌を森下勝美さん、介添えを内野弘さんが受け継いでいます。
昭和8年生まれの森下勝美さん。小学生の頃、舞台の袖に手を置いては、「こりゃーいいなぁー。」と七草祭に心をときめかせていました。父が舞役をしていたこともあり、その縁で小学生の時に一度、駒をやったことがあります。憧れの七草祭に参加。この時はすごく嬉しかったといいます。笛に魅せられた勝美さんは、結婚を機に笛の練習に精進するようになりました。父からも教えを受け、舞台に立ったのはそれから約5年後のことです。以来、七草祭の舞台ではずっと笛を吹いてきました。体の都合で笛が吹けなくなりましたが、すぐに指名を受け、6年前に主掌を引き継ぎました。

内野弘さん

勝美さんよりも6つ下の内野弘さん。かつて内野家は福田寺の隣に家を構え、代々七草祭の禰宜や主掌を務めてきました。しかし、明治中期に隠居し、それからは隠居と名乗るようになりました。弘さんは隠居の5代目です。ずっと勤め人で通ってきた弘さんは、朝暗い時に出かけ、暗くなってから帰ってきたので、地域のことにはほぼ関わってきませんでした。

(上)普段の福田寺、(下)祭で使う山鳥や馬の被りものは、福田寺に納められています ところが、弘さんが退職するのを待ちわびていたかのように、退職後は色々な地域の役が舞い込んできました。最初にきたのは町内会の会計です。中途半端なことが嫌いで、言い訳などはしたくない性分の弘さんは、退職後5年間は会社勤務を続ける予定でしたが、それを断り、「会計」の仕事に専念しました。
神官の血を引くということで勝美さんと同時に声がかかり、七草祭の介添えを務めるようになりました。七草祭は何十年ぶりです。突然声がかかったので、何もわからず、初めは本当に苦労したといいます。責任感の強い弘さんですから、先代を訪ね、数え文を録音させてもらったり、飾りなどをすべて写真に記録し、まとめました。今はその写真を基にお祭りの準備をしていて、大切な資料になっています。
昔は人も多く、七草祭の役は引く手あまたでしたが、今は舞役をやってもらうのに、各家々を回り、頭を下げてお願いするような状況です。かつては七草祭の練習のためにどこかへ気軽に集まり、酒を酌み交わし、七草祭との繋がりを深めていました。「今、それがほしいだよ。」と弘さんは強く言います。
東日本大震災で自粛ムードが高まる中、日向にある白髭神社の春祭りは取り止めになってしまいました。しかし、こんな大震災の時だからこそ、氏神様への祈りやお祭りを通して地域の結びつきを強くすることが必要なのではと感じています。その輪がずっと広がっていけば・・・、そんなふうに願っています。

舞役や笛の人達は輪を作り、笹竹を1本ずつ手に

七草の夜、「駒んず」の詞章は、今年も美しい歌声となって境内に響き渡りました。舞役や笛の人達は輪を作り、笹竹を1本ずつ手にしています。詞章を歌い、笹竹の先端を重ね合わせながら、前後に揺らしています。勝美さん、弘さん、地場幸君もこの中にいます。漆黒の空に光を浴びた笹竹はサワサワと揺れ、そこへ山鳥や駒の冠を頭につけ、水垢離で身を清めた子ども達4人が、駒、山鳥の順に輪の中へ入りこみ、かがみながらゆっくりと廻っていきました。最後は観音堂へ入り千手観音に手を合わせます。この詞章は祈りとなって日向へ満ちていくことでしょう。

どうかこの美しい詞章が、いつまでも日向の山々に木霊しますように。

参考
静岡県指定無形民俗文化財調査報告書 日向の七草祭
ふるさと民俗芸能ビデオガイドNo.5七草祭

(レポート 小梅)

日向の七草祭の動画はこちら(しずおかの民俗芸能)
http://www.shiz-bunka.com/groups/nation_04

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