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第14回 朝比奈・殿地区に伝わる虫送り

更新日時2013.11.18

龍勢花火の打ち揚げで知られる藤枝市岡部町朝比奈の殿地区に「虫送り」と呼ばれる行事が伝えられています。

この虫送りは稲につく害虫を追い払う行事として全国に広く伝承されており、「虫追い」「虫祈祷」「実盛送り」「ウンカ送り」などとも呼ばれます。大松明を田んぼの大畔に立てて火を点すと、その光に誘われてきたニカメイチュウや秋ウンカなどの害虫が近くの稲の葉に止まります。これを棒や竹箒で払い、油を張った水田に落としたのです。農薬が普及する以前の日本では、各地の農村で同じような虫送りをしていました。そして、この殿地区では現在でも伝統行事として継承されているのです。

元禄鉦を先頭に大畔を進む虫送りの行列

ただ、殿の虫送りも長く中断された時期がありました。理由は昭和十六年に始まった太平洋戦争です。夜間の灯火管制が敷かれたため自粛することになり、戦後もそのままになっていたのです。
 当時のことを知る朝比奈寿郎さん(大正十五年生まれ)によると、「戦後すぐに復活するかと思ったが、稲の害虫駆除の手段は誘蛾灯にとって代わられたのだ」と言います。
 終戦後、誘蛾灯は田んぼのあちこちに点されました。その光に誘引された稲の害虫が飛んでくると、油をひいた皿に落ちる仕組みです。つまり、その害虫駆除の方法は虫送りのやり方を踏襲していたわけです。

次に誘蛾灯に代わって強力な農薬が登場しました。ホリドールという名のアメリカから輸入された殺虫剤です。これにより、確かにニカメイチュウや秋ウンカなどを駆除できたのですが、同時に、田んぼに生息するドジョウやフナ、モロコ、メダカなども姿を消してしまったのでした。

朝比奈さん自身の体験した戦前の虫送りは、八月二十三日から四、五日間にわたって行われていたそうです。その最終日には殿地区の各集落(五十又、西平、二ッ谷)から松明を持った子供たちが行列し、朝比奈川に架かる殿橋の手前で合流して川まで送ったといいます。その殿橋のたもとでは、同地区にある総善寺の和尚さんが施餓鬼棚の前でお経を読誦していました。
 この年中行事が二十三日を目安に何日か続けられていたということから、もともと稲の害虫駆除を目的にした農作業の一つだったことがわかります。例年、八月二十三日は総善寺の六地蔵さんの縁日であり、川施餓鬼の日でしたから、虫送りはそれらとともに行われてきたのでしょう。

また、虫送りのときには一つの鉦が使われ、子供の数の多い西平が叩いたとのことです。この鉦には、「元禄九年子ノ極月吉日 新如助給代 塔編万百□□」と銘が彫られており、殿の人々はこの鐘を「元禄鉦」と呼んでいます。この虫送りがいつ頃から始まったのかはわかっておらず、その歴史を記した文献なども残されていませんが、地元ではこの鉦の銘にある元禄九年には、すでに始まっていたと考えているようです。
 ちなみに、殿の虫送りが戦争開始から中断されていたことは前述したとおりですが、復活のきっかけになったのがこの「元禄鉦」でした。虫送りの中断とともにその行方がわからなくなっていたのですが、近年、“大家”と呼ばれる朝比奈吉久さん宅の母屋の屋根裏を掃除したところ、この鉦が見つかったのでした。そして、殿の人々はかつての年中行事「虫送り」を夏の風物詩として次世代に繋げようと、昭和五十七年の夏に復活させたのです。
 さて、ヒグラシ蝉の鳴き声がか細くなる八月二十三日の夕方、西の山端に日が落ちるのを待って虫送りが始まりました。今年も、朝比奈第一小学校の一~六年生の生徒たちが参加して二〇人程が集まりました。龍勢の発射台(タテジ)の建つ、西河原という田んぼの端で松明に火を点けると、いよいよ出発です。

 カーン カーン カンカン カーン
 何の虫 おーくーる
 カーン カーン カンカン カーン
 田の虫 おーくーれや
 カーン カーン カンカン カーン
 青田の虫 おーくーれや

大松明に火を点す子供たち

「元禄鉦」を打ち鳴らし、子供たちが火を点した松明を持って田んぼ中の大畔を進んでいきます。
 戦前の松明はキュウリや瓜の垣根に使った竹を一メートルほどに切りそろえ、直径二〇センチほどに束ねたものを使っていましたが、現代のそれは松の根を割った脂の多い肥松を青竹の先に結わえつけたものです。子供たちはこの松明で青田の脇の大松明に次々と点火していきます。これらの大松明は、あらかじめそれぞれの田の耕作者が枯れた竹を束ねて立てておいたものなのです。

六地蔵にお参りをした後お菓子やジュースをいただく子供たち

 カーン カーン カンカン カーン
 何の虫 おーくーる
 カーン カーン カンカン カーン
 田の虫 おーくーれや
 カーン カーン カンカン カーン
 青田の虫 おーくーれや

このころにはすっかり暗くなり、大松明の炎が夏の夜を幻想的なものにしています。行列の終点は総善寺前の橋の脇にしつらえた施餓鬼棚。子供たちはここで松明を置き、六地蔵さんにお参りしてから、五色団子やお菓子、ジュースなどの飲み物をいただいて解散となるのです。

施餓鬼棚に読経する総善寺の和尚さん 虫送りに参加した地域の子供たち
総善寺の六地蔵 日が落ちて幻想的な大松明の炎 各々の松明に火をつける子供たち

(注1)龍勢花火…筒に黒色火薬を詰めて竹竿を結んだロケット花火。打ち上げの祭典は朝比奈の伝統行事で「朝比奈大龍勢」といわれる
(注2)ニカメイチュウ…正式な和名はニカメイガ。小型の蛾で、時に大発生をする。幼虫は稲の茎の中に入り込んで被害を出す
(注3)秋ウンカ…稲の汁液を吸い、病気を媒介する害虫。正式な和名をトビイロウンカといい、秋に多くなるため秋ウンカとも呼ばれる

(レポート しずおかの文化新書編集長 八木洋行)

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