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第15回 川合淵まつり

更新日時2014.03.10

親孝行な娘と大蛇の伝説

浜松市北区引佐町久留女木は、浜名湖の北、都田川の上流にある静かな山間の集落である。その都田川の上流には幾つもの深い淵があり、久留女木の川合淵という淵には、大きな大きな大蛇が棲んでいるといわれていた。

昔むかし、久留女木の村に千代という娘がいて、父は木こりだったが、もう三年も病気で寝たきりだった。ある日、千代は田沢(久留女木の南西にある集落)の医者に、父の薬をもらいに出掛けた。家を出るときはそれほどでもなかった雨が、帰るころには土砂降りになっていた。

祭りの始まりに際し、親子の蛇頭にお経をあげる。

「お父さんが薬を待っている」と千代は家路を急いだが、川合淵まで来ると茫然とした。川合淵には川を渡るために、四八個の大きな飛び石が並べられていて、それを飛んで渡るのが唯一の道だったのだが、土砂降りの雨で川は水かさを増し、飛び石は濁流に潜ってどこにあるのかも分からなくなっていた。

千代は父の安否を気遣い「困ったわ。お父さんに薬を届けられない。神様、どうか川を渡らせて下さい」と祈った。すると、上流から一本の大きな丸太が流れてきて飛び石に引っ掛かって留まり、まるで丸木橋のように両岸に掛かった。

千代はこれ幸いと丸太を渡り、向こう岸にたどりついた。そして振り返ると、丸太だと思って渡ったのは大きな蛇で、今まさに悠々と泳ぎ去るところだったという。

やがて、千代の献身的な看病の甲斐あって、父の病は快方に向かい、千代は川合淵に鯉を放流して感謝の気持ちを表した。また、この話を聞いた村人たちは「千代の孝行に大蛇が感心したのだろう」といって、川合淵に大蛇塚を作り、優鉢羅竜王としてって祀った…。この伝説を元にして、毎年七月の第一土曜日に「川合淵まつり」が行われている。 ぜひ、大蛇の舞を見てもらいたい

都田川を渡る若い衆の大蛇。

「川合淵の大蛇伝説は昔からあって、信仰心の厚い人々によって、蛇塚の祀りも古くからおこなわれていました。今のようなお祭りを行うようになったのは昭和四十三年(一九六八)からで、久留女木に川の家ができたことをきっかけに始まりました」そう話してくれたのは同町内に住む西岡隆司さん(七十八歳)。西岡さんは長年、川合淵まつりの保存会長を務めてきた。

昭和四十年代はまだ林業が盛んだったため、川合淵には木の御霊を供養する木霊塔も建てられ、蛇神様の優鉢羅竜王のお祭りと一緒に、行基菩薩の伝説にちなんだ藁人形流しなども併せて一つのお祭りとして執り行われるようになったという。

しかし何といっても川合淵まつり最大の呼び物は、十二メートル以上という蛇が、若い衆の笛や太鼓に併せて、伝説さながらに都田川を渡河する場面であろう。この場面を一目見ようと、大勢の観光客やカメラマンが都田川の岸を囲む。

都田川を渡ってこちらの岸にたどり着いた大蛇は、おかめに先導されて村の衆が待つ祭り会場へと入っていく。祭りの会場では、大蛇が激しい笛や太鼓の曲に併せて縦横無尽に暴れまわる。暴れまわる大蛇の蛇頭の重さは一〇キロ以上あり、とても勇壮である。

「実は、蛇の中に入ってみると、視界は足元の一メートルほどしかありません。そんな状態で暴れまわるわけですから、息が合っていないと、尻尾の方に入っている人が外へ弾き飛ばされてしまったり、蛇頭に入っている人が引っ張られて後ろにひっくり返ってしまいます。中に入っている若い衆の呼吸が、本当にピッタリ合っているからこそ出来る舞なのです」と西岡さんは話す。

「こんな小さな集落のお祭りですが、私はこの大蛇の舞は日本一だと思っています。ぜひ、大勢の方にご覧いただきたいものです」と西岡さんは胸を張る。

おかめに大蛇が巻きつく、舞のクライマックス。。 子供の蛇も勇壮に舞う。

「親孝行」という言葉を伝えたい

川合淵まつりの大蛇の舞は、若い衆が行う大人の舞とは別に、子供たちが行う大蛇の舞もある。演じるのは久留女木地区の小学生を中心に、近年は幼稚園児も加わり、今年(平成二十五年)は一〇人で行った。

今年、蛇頭を務めた仲井涼くん(六年生)は「蛇頭をやるのは毎年六年生の役割。蛇頭は重かったけど、すぐ後ろに入ってくれた子も、しっかり支えてくれて上手にできたと思います」と話してくれた。

子供の蛇頭は木製なので大人の物よりは軽いが、子供の舞も祭り会場を縦横無尽に暴れまわるので、やはり息が合っていないと上手に舞えない。「練習は二回しかやっていないけど、みんな小さいころからやっているからチームワークが良いんだと思います」と仲井くんは笑って話した。

久留女木地区には以前、小学校もあったが、平成二十二年の三月で閉校になってしまった。久留女木地区も他の中山間地域と同じく、過疎化や少子化が進んでいる。

西岡さんは「この千代と大蛇の昔語りは、親孝行や親子の絆を伝えるお話ですが、残念ながら、現代社会では・親孝行・という言葉自体が忘れられつつあります。今は日本中で核家族が増え、久留女木でも街に出る若い衆もたくさんいます。でも、だからこそ、この伝説は大切に残していかなくてはと思っています」と話した。

祭りの会場ではスイカ割りの他、村の衆が開く、かき氷や五平餅、金魚すくいなどの出店が楽しい。 大蛇の舞を演じた若い衆と子供たち(平成二十一年)

大切なものを受け継ぐ地域性

久留女木は、この大蛇の伝説以外にも、村人と河童とのふれあいを伝える「竜宮小僧の伝説」や、行基菩薩にまつわる「行基伝説」、「波小僧の伝説」など、幾つもの伝説が伝えられてきた。また、県内最大の耕作面積を誇る「久留女木の棚田」もこの地区にある。

ふと思う。遠い昔から伝えられてきた有形無形のものが、連綿と受け継がれる不思議な地域性が、この久留女木の村にはあるのではないか……と。

川合淵まつりは大勢の観光客が訪れる昼間の部とは趣を変えて、夕方からは村人が家族総出で集まり、また、村を出た若い衆や、嫁いだ娘も戻ってきて余興大会となる。若連やOBが練習を重ねてきた寸劇や、子供たちの歌や踊り、村人が思い思いの歌謡や舞踊を披露し、楽しい笑いで包まれる。

もしかしたら、こういった何気ない家族のつながりや隣人とのふれあいが、現代人が忘れかけている大切なものを伝え続けてきたのかもしれないと思うのである。

(レポート 鈴木一記)

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