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第3回「人口移動の現状と未来の地域社会」①

更新日時2018.01.11

本日は人口移動の現状と未来の地域社会という私の専門分野のお話をさせていただきたいなと思います。

 

私の専門は都市経済学という分野で、交通投資とか様々な規制とか、企業とか家の立地がどのように変化するか、立地分析を主に理論研究として取り組んでいますそういった観点から現在騒がれている人口減少で立地や都市にどのような問題が生じるかを紹介し、どういった取り組みがなされているんだということを皆さんと考えていけたらなと思っております。

 

静岡の謎?

まず始めに、静岡で人口減少が認知されたのが「静岡の謎」という2015年3月の日経の新聞記事です。自治体の人口流出で、北海道に次いで静岡県が2位だった。静岡って我々の実感としては非常に暮らしやすい県で、太平洋ベルトにも位置し、相対的に見て、非常に魅力的だと思ったわけですね。まさか静岡が2位になるとは、ということで非常に全国的にも話題になったお話です。

 

その人口流出の原因について、ストロー効果が影響していると専門家は指摘しています。主に静岡県でどんな世帯が人口流出しているかというと、若い女性です。その理由は進学で、東京や名古屋に進学するわけです。その時、例えば北海道から東京に進学すると遠いので、実家に帰るのが一苦労ですね。しかし、静岡はどうでしょうかというと、新幹線が整備され、東名高速道路も昔からあります。月に1回でも帰れますし日帰りでも帰れます。そうすると、いつでも実家に帰れるから気軽に東京に進学できるわけです。一方で東京へのアクセスが非常に悪い地域は、東京に行ったら時間もかかるしお金もかかるからそんなに実家に帰れません。そうすると、交通整備やアクセスの良さが仇となって、東京に人口が吸い上げられることが起こります。

 

今の例は大学進学を控えた学生の例ですけれども、これは企業にも当てはまります。例えば今まで静岡支店を持っていた会社が、東名や東海道新幹線ができて便利になると、東京の人が出張で来ればいいとなります。そして静岡支社を廃止しましょうとなるわけです。ですが、辺鄙なところにある支店は、東京から出張できたらとんでもなく時間もお金もかかりますので、そこに支店を置かざるを得ないとなります。静岡は交通アクセスを良くした結果、企業とか人が東京に吸い上げられるというストロー効果の影響がでていると我々専門家は考えています。

 

静岡市の人口動態

静岡市のデータですが、ピークが1990年で、73万人程度です。そこから下がっていき、2012年現在では政令指定都市の中では最下位の人口数になっています。65歳以上の人口が増加と書いてありますが、一方で、15歳から64歳が極端に減っていますね。当然、産まれてくる人が減っていますが、それ以上に15歳から64歳の人口が極端に減っています。

 

今度は自然増減社会増減を見てみると、自然増減は生まれてくる人と死んでいく人の差です。社会増減は静岡市から出ていく人と入ってくる人の差です。それを見ると自然増減は、2005年迄増加していましたが、2005年を境にマイナスになっています。これは、日本全国と同じです。社会増減を見ると、実は昔から人はどんどん出て行っていました。1970年代では非常に多くの人が首都圏に流出しました。しかし、それ以上に子供が沢山生まれていましたので、トータルとして人口が増えていたということになります。社会増減から見ると昔ほどではないにしても相変わらずマイナスです。社会増減で転出超過数を世代に注目して見てみますと、進学を控えた若者は学校を選択する際に、東京ですとか、名古屋を選んで出て行ってしまった結果、転出が極端に多くなります。

 

まとめると、一貫して自然減少が進んでいることは国と同じ傾向ですから、今は国を挙げて出生率を改善しようという対策はいろいろと起きているわけです。一方、地方都市においては、社会減少の影響が相当大きく、若年層の人口流出が大きな問題になっています。そこで、地方自治体はそれぞれ人口流出対策に取り組んでいます。

 

 

人口減少、何が問題?

さて、人口減少は一体何が問題でしょうか?実はそんなに問題ではなく、鬼頭先生のお話ではパラダイムシフトの準備段階で、ここでしっかり充電して、新たなシステムを構築すれば問題ないですよという前向きなお話もありましたし、白井先生はジェンダーの観点から、人口が減っても対応次第で回復できるというようなお話しもありました。

 

では、一般的に問題と言われているのが何かというと、生産年齢人口が極端に減ってくるという事でGDPが減ってしまい、経済成長が止まることが大きな問題だと言われています。その為には労働力の確保が必要だと言われて、今取り組まれていることが、定年の延長とか、今まで働いていない女性が働くことで就労率を向上させるということをやっています。

 

さてここで質問ですが、GDPが小さくなることって悪いことですか。経済成長していくと、人間が豊かになるみたいな思い込みがあるんじゃないかということがまず一つあります。さらに、問題なのは1人当たりGDPが重要です。日本全体として稼いだお金を日本国民で分配するわけですから、GDPの総額が減ってもそれ以上に人が減ってれば取り分が増えます。だから1人当たりのGDPが伸びるのであれば、自分の取り分は増えます。ということは、1人当たりGDPの議論を伸ばすために何をしているかっていうと、労働生産性の向上です。1人あたりがどれだけ効率的な生産ができるかを議論しています。アベノミクスの成長戦略ですとか、働き方改革などです。最近もよく言われていますが、日本人は非常に長時間労働している割には生産性が低い。そこで労働生産性の向上を目指そうという話なわけです。

 

そしてもう一つ、この生産年齢人口が減って高齢者人口が増えると、社会保障費の負担が増加するということですね。そのために年金・介護福祉制度改革が、度々議論されています。

 

年金の受給額を見直そうとか、受給年齢を変えるとか、介護福祉に関してもいろいろな制度ができていますね。さらに総人口が減少すると、一人当たり行政コストが増加してきます。

 

例えば、昔は500人くらいいた学校が、少子化によって今は100人しかいませんとなると、校舎の維持費など、1人当たりにかかる教育費は高くなります。このままいくと行政コストが高くなっていくという問題があります。

 

そのために税制改革、増税をやってみたりとか、行政の効率化を図ってみたり、コンパクトシティ政策なんてことも、この行政コストを圧縮しようと言う狙いがあるわけです。さて、3点ほど問題を上げましたが、これが問題ならば止めなくてはならないということです。出生率に関しては国策としていろんな工夫が必要となります。

 

地方自治体における人口流出対策:自治体間競争

社会減少、転出への取り組みを紹介しますと、まず静岡市でやっている新幹線通学費の貸与です。定期券の三分の一を市が持ち、将来静岡に就職して静岡市の住民税を何年か納めてくれればこの返済を免除してあげましょうという制度を2016年度から開始したのです。

 

これによって、学生が東京に行ったけど、静岡に戻ってこないことを緩和できるのではないかという試みです。これ非常に人気で、2016年度を予定していた申し込みがすぐに埋まり、2017年度は予算を増額したというお話を聞いています。

 

我々静岡県立大学での事例ですが、地(知)の拠点整備事業という取り組みで、地域志向科目、しずおか学科目群を大学の講義に取り入れて、静岡県の特徴、魅力、課題を教えていくと、その結果、若者が地域の魅力を再認識してくれる。昨日ランチセッションででた意見ですが、静岡県や静岡市は良いところなのに、住んでいる人があまり評価していないということですね。同じように、榛原高校と共同で、故郷志向の学生育成にも取り組んでいます。これによって若年層が地元の大学、企業に目を向けるきっかけ作りになればと考えています。

 

一方で、社会増、転入を増やす取り組みとしては、藤枝市です。藤枝駅前の地価上昇率が今年ナンバーワンになりまして、非常に注目されているエリアですね。地価が上がるということは、転入が増えているということです。

 

自治体の取組み-藤枝市・藤枝スタイル

藤枝市は定住・移住促進ホームページ藤枝スタイルを作って、藤枝の魅力や子育て支援制度や学校などを紹介しています。転居する際に必要となる情報を一括に集約しているわけです。実は、複数の自治体でも裾野市とか静岡市、沼津市でも同じようなことをやっています。結局、限られたパイの奪い合いという状況になっているわけです。転入転出は自然増加と違って、どこかが増えれば同じだけ人が減るので、自治体間競争が生まれ、勝ち組負け組と呼ばれるようなエリアが必然的に出てきてしまいます。県内で勝ち組と評価されるのは藤枝市とか長泉町です。魅力的な政策で人口転入が続いているわけです。

 

実は政府が自治体間競争をさせているという側面もあります。安倍首相が打ちだしている地方創生は、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけるという政策です。まち・ひと・しごと創生総合戦略を各自治体に作らせたわけです。どうやって自分の地域を魅力的にするか、どういう政策をするかをつくらせたわけです。この結果、今まで政府は国庫補助金や地方交付税という形で、国税を地方に配分し、地域の政策をとっていましたが、その一部をやめて、新型交付金という形でこの総合戦略を評価して非常に魅力的なプランや、効果が高そうな政策を提示した自治体には補助金を付けるという政策です。その結果、自治体間競争が生まれました。

 

実際のところ、静岡市は人口70万人の維持などをうたっていますが、どの自治体もそうですが現状の出生率ですと実数目標は当然ながら達成されない。そうなってくると、人口減少を食い止めるのは一義的な方向性で、出生率を改善すれば良い。しかし、今すぐ改善したところで、自然減少が進んでいますからすぐに人口が増加するわけではなく、しばらく人口減少が続きます。移民政策も考えられますが、様々な問題が発生してしまう。

 

次に考えられることは、人口減少を受け入れてうまくやっていく、持続可能な社会を作っていけないかと考えていくわけです。持続可能というのは、まず労働力を確保し、労働生産性を向上することです。社会保障費のコスト削減、一人当たりの行政コストの削減と、この4つで持続可能な行政経営を達成しようとしているわけです。

 

コンパクトシティ政策

今日紹介したいのは私の専門であるコンパクトシティという政策です。まず始めに、人口変動による都市問題ということで、2005年を境に人口増加から、人口減少に転じたと言われていますけども、この間に都市という観点でどういう問題があったかというと、人口増加局面だと街中に住むところが無くなるので、郊外に開発を進めて郊外化が進みます。その無秩序に郊外化したことによるスプロール化。逆に郊外が発達し、中心市街地の魅力がなくなって中心市街地が衰退してしまう問題。後は大都市圏で人口が密集しすぎて都市環境が悪化したという問題が2005年までは都市問題としてありました。

 

一方で2005年を境に人口減少になったことによる影響は、例えば、人口減少で商売が成立しないお店が撤退してしまい、その結果、住民が買い物するのが不便になるという買い物難民の問題。限界集落の問題で、山間部などで人が減りすぎて、コミュニティーを形成する事ができないほど人口減少が進んでいるというような問題ですね。あと郊外のニュータウンが高齢化してゴーストタウンになってしまうとか。地方の公共交通の利用者が減ってしまった結果、財政的に維持困難になると言う問題もあります。こういった問題解決して行かなきゃならないですけど、人口増加局面では税収が増えてきたわけで、それに応じてインフラを整備しないとならないためにインフラ整備事業がクローズアップされたわけですけども、人口減少が進むと新たに整備する必要はないけれども、昔作ったインフラの維持や更新に費用がかかります。

 

人口減少の問題点:「人口減少」は「人口増加」の巻き戻しではない

昔ながらの中心市街地があると、人口増加局面ではインフラ整備が行われて、空地である郊外に住む人も増え、こういった住民のために郊外にインフラ投資が進み、学校や道路、公共交通を通すことで、都市が発展してきました。しかし、人口減少局面では何が起こるかというと、人口減少は至る所で起こります。郊外でも起こりますし、中心市街地でも起こるので、人口増加の巻き戻しではないですね。

 

じゃあ仮に巻き戻しだったら何かというと、郊外に住む人がいないので郊外のバスや、道路、学校が廃止されていきます。巻き戻しだったらそういうインフラ整備が無くなるので、人口減少に応じて行政コストを削減することができます。行政コストの観点からみると、巻き戻しだったらあまり問題は起こらないのですが、人口減少は巻き戻しではないってことが問題です。無計画な人口減少により、無秩序な空洞化や限界集落の発生という問題が起こってきます。無秩序な空洞化は郊外などで人口減少が進むことで、一人当たりの行政コストや財政負担が増えることです。限界集落の問題は、農村が維持できなくなりそこに住む人が困ることと、田舎を放棄してしまうことで自然災害に対する予算が減り、災害に見舞われるということも起こりうるわけです。さらに都市部の限界集落として、アメリカなどではスラム化という治安の悪い場所ができてしまうという問題です。

 

こういったことを防ぐためにコンパクトシティ政策や、限界集落の政策が必要だと言われているわけです。コンパクトシティとは土地利用の郊外化を抑制して、都市機能や居住地を中心市街地及びその周辺に集約すること。それによって効率的で持続可能な都市を目指す政策です。

 

実はヨーロッパで先進的に言われていることですが、ヨーロッパ諸国の目的は環境負荷の低減です。中心市街地に人口が集約すると、車で長距離移動しなくなります。そもそもそ車がいらなくなり、公共交通で生活できるようになるかもしれない、すると環境負荷が減ります。郊外の道路化で環境破壊することもなくなります。

 

アメリカの場合は、地域コミュニティーの再生が目的として掲げられています。現在、地域コミュニティーはどんどん崩壊しています。集合住宅でアパートの隣の人の顔も見たことないということはよく聞く話です。伝統的な地域コミュニティーがどんどん崩壊していることは、アメリカも同じです。地域コミュニティーの再生のために、みんな同じところに暮らして顔を付け合わせるような社会が必要でしょうというのが、アメリカの目的意識です。そして、日本が一番重要視しているのは行政コストの削減です。日本の政府の財政赤字がとんでもない額になっているのでその改善が目的となっています。

 

コンパクトシティ:事例紹介(富山市)

よく紹介されるのは富山市の事例です。LRTと呼ばれる新型の路面電車を街中に整備し、それを元に街中居住を進めるという政策です。私も何回か視察に行ったことがありますが、富山は冬に雪がたくさん降ります。除雪に多額の行政コストがかかりますが、郊外で高齢の方がぽつんと住んでいると、自力で除雪できないので行政が除雪しないといけないですね。しかし行政は、お金がないからと言って、除雪しないとその住民が外出できず死んでしまったとしたら、本当に責任問題になります。そういった行政コストをなるべく減らしたいということで、しっかり除雪が行き届くように街中を中心に皆さん暮らしましょうということを市長がリーダーシップをとって進めています。

 

コンパクトシティ:事例紹介(静岡市)

 

次に静岡市ですが、2015年に改定された第3次静岡市総合計画でもコンパクトシティについて謳われています。静岡市の現状を紹介しますと、昭和35年総人口が37万人でしたが、人口密度は1ヘクタール当たり100.2人でした。平成22年になると人口が62万人になって、人口密度が高くなり、DIDと言われる中心市街地の人口密度が60.1まで低下しました。しかし面積はどんどん増えて2.8倍になり、人口密度が減っているので、低密度化が進んでいるということがあります。この結果、行政コストが嵩むということが起こっています。そこで、静岡市が目指しているのは、集約連携型都市構造で、市民生活に必要な都市機能を、地域の中心となる鉄道駅とか街中に集約していくことです。集約した地区間を公共交通機関でつなぐことで、自動車に過度に依存しなくても生活できるような都市構造目指しましょうということが、静岡市都市計画マスタープランで謳っています。その実現のために交通計画ではLRT構想があります。あとは自転車利用の促進もあります。また、都市部の居住を推進するために都市部へ投資し、コンパクトシティを目指しましょうとしています。

 

講師プロフィール

静岡県立大学 経営情報学部 岸昭雄先生

静岡県立大学経営情報学部、大学院経営情報イノベーション研究科講師。
公共政策の費用対効果分析や、都市経済学をベースとした公共政策に伴う企業や家計の立地分析を専門に研究を行っている。その専門性を生かして、静岡県や県内自治体の総合計画、交通計画等の策定に関わる審議会、委員会に委員として参加し、少子高齢化、人口減少社会における地方都市の政策に関与している。

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