ささえる、つなげる、創造する ふじのくに文化情報センター

ホーム > グランシップ文化講座 > 第3回「人口移動の現状と未来の地域社会」②

第3回「人口移動の現状と未来の地域社会」②

更新日時2018.01.11

行政コストの削減

だいたいどの都市も集約とかコンパクトシティを計画で謳っているというのが現状です。公共施設や公共サービス、例えば学校で言うと校舎維持などの固定費から、学生数により教員数などが増減します。学生数が1人の学校より、2人、3人と多い方が、コストが少なくて済みます。固定費の面から考えると、利用者が増えるほど費用は減少していきます。裏を返すと利用者が減るほどコストがどんどん増えるということです。例えば、鉄道バスという交通インフラから、水道ガス電気という生活基盤インフラなどはすべて同じことが言えます。利用者数に応じて適正な規模に施設を調整することができません。一度大きな校舎を建ててしまったら、利用者数に応じて小さく建て替えることもコストがかかりますし、大きな校舎を維持していくのにコストがかかっていきます。

 

インフラ整備やハコモノというのは、利用者数に応じてフレキシブルに適切に規模を変えられないわけですね。そういった特徴があるので、人口減少が進むと行政コストが増加するという問題点があります。そこで、都市部では人口の集積を計って利用者増による一人あたりのコストを削減していかなくてはならない。郊外部では逆に施設の統廃合がされています。施設の複合化、多機能化で小学校の空いている教室に保育園を入れたりとか、子育て支援センターを入れたり、もしくは行政の窓口事務所を入りたりして、固定費用を圧縮して、コスト削減に取り組んでいます。

 

複合施設活用による固定費用圧縮への取り組み

ひとつ例として、「くるら戸田」と呼ばれる道の駅に、沼津市の地区センターとか市民窓口事務所とか高齢者向けの福祉施設などを併設しています。その結果、単体で持つより複合施設として整備することで、固定費を抑えています。それ以外にも様々な取り組みがありますが、サービスの提供ということで、公共交通を維持できないような路線バス路線では、オンデマンドバスとかタクシー券を配布してタクシーを利用したり、自家用有償旅客運送で、代替サービスを提供したりしています。あとは、行政証明書の取得などを行政窓口ではなくコンビニを利用して、住民票などを受け取れるとかがあります。広域連携として、単体では利用者が少ないから勿体ない施設整備を共同で持ちましょうということがあります。静岡県の例では、消防指令センターや、教育文化施設などを共同で運営しています。

 

環境負荷の低減

1人を1キロ運ぶのに必要なエネルギーをエネルギー効率と言います。自動車を1とした場合、その1人をバスで運ぶとエネルギー効率は2分の1になり、鉄道で運ぶと6分の1になります。自動車で運ぶことは非常にエネルギー効率の悪い輸送手段と言えます。今まで自動車を利用していた人がバスや鉄道に変わることで、エネルギー効率が非常に良くなり、電力問題とか二酸化炭素の問題も改善されてくると言われています。さらに、土地利用がコンパクト化すると、今まで30分かけて通勤していたのが街中に住むことで移動が10分になったら、移動距離も減りますね。その結果、大幅な環境負荷の低減が図れるのではないかと見込まれています。

 

では、コンパクトシティを進めるために街中に投資をする行政コストはどうするのかと思う方もいると思いますが、実は今、インフラの更新を迎えているタイミングです。

 

高度成長期に、日本は人口が増え、様々なインフラ整備がされました。それから40年50年経ち寿命を迎えるので、適切に更新しないと壊れてしまい、トンネルの崩壊などの事故が起きてしまいます。そして今、様々なインフラが更新時期を迎えていて、この更新のタイミングに合わせて不要な施設の統廃合や、更新が必要なものは少し予算を増やして立派なものに作り替えることを工夫することで、コンパクトシティのための追加費用はそれほどかからないと考えられるわけです。

 

地域コミュニティーの再生

コンパクトシティが実現するとどうなるかというと、いろんな方々が街中に暮らすわけで、職住近接、職場と住んでいる場所が非常に近く、物理的に近くの方と顔を合わせる事が増えます。その結果、古き良き時代と言われている一昔前に日本であったような地域コミュニティーが形成されるんじゃないかという希望的観測もあります。ただ、私は大学などで若者を見ていますが、非常にコミュニケーションを取りたがらないですね。文化が変わってきていて、人と人とのつき合いをストレスに感じることが、我々の世代以上に若い人では進んでいるわけです。しかし、コミュニケーションをとってないかというとそういうことはなくて、他のSNSとかで代替となるコミュニケーションは取れているので、あえてストレスを感じるようなコミュニケーションは取らなくてもいいと考える若者もいると思います。単純に同じところに暮らしているからと言って、簡単にコミュニティー形成ができるかというと疑問があります。

 

そしてもう一つ、高齢化社会において地域包括ケアも課題になっています。高齢者が身体を悪くしたら病院に入って病院でずっと面倒を見るのではなく、なるべく可能な限り自宅や地域でケアをしましょうというのが地域包括ケアの発想です。コンパクトシティがこの地域包括ケアの発想に非常にマッチします。みんなが同じところに暮らしていれば、介護が必要になっているお母さんが、自分の子供を保育所に迎えに行った後、おじいさんを病院や介護施設に迎えに行くなんて事も可能になるわけです。保育所と介護施設が全然違うところにあったら車で何時間もかかりますけども、仮に近所にあればお迎えにかかる時間が少なくなり、非常にやりやすくなります。医療や介護を地域で抵抗するにはこのコンパクトシティを進めることが非常に有効なわけです。

 

コンパクトシティへの批判

さて、コンパクトシティの有効性を話してきましたが、コンパクトシティは批判もされていて、国交省を中心にコンパクトシティを目指そうと言われていたのは20年ぐらい前から言われていますが、10年20年と経ち、本当に意図した効果があるのかというような問題と、街中に集中投資を行うことは、郊外の切り捨てじゃないかとか、そもそも住む場所を決めるなんて個人の権利の侵害なんていう意見もあります。

 

まず、コンパクトシティに対する効果の批判についてですが、失敗事例をマスコミで報道されています。秋田市の事例ですが、「エリアなかいち」という中心市街地の再開発ビルを建てましたが経営がうまくいかず、地価も下がっていると報道されました。青森市も「アウガ」という中心市街地の再開発ビルを建ててコンパクトシティを目指しましたが、大幅な赤字を補填するために市長が退職すると言うことが報道されました。ネガティブ報道があった結果、事業として失敗しているということでコンパクトシティが意図した効果が得られてないんじゃないかという批判があります。

 

実際はどうかと言うと、先ほどの秋田の話ですが、エリア開発の裏ではイオンが進出しています。要するにコンパクトシティを進めると言ってエリアなかいちを作っておきながら、同時に郊外エリアも開発しています。中心市街地の再開発で中心市街地に商店が入ったことと、郊外にメガモールができたなら、皆さんはどちらを選択しますか?メガモールを選択する人が多ければ、当然中心市街地にお客さんは来なくなるという問題が裏にあります。これらの政策には首尾一貫性が無いじゃないかという批判もあると思いますが、これは住民の異なる価値観への対応の結果です。

 

例えばコンパクトシティを進めて郊外開発は今後しませんとなると、自治体間の競争が起きて、何でも揃うメガモールがあったほうが便利だと思っている人はその都市から他の自治体に行ってしまいます。そうすると、自分の自治体だけでコンパクトシティ政策を進めたところで、その結果、郊外型のショップが好きな人が多かったら他の自治体に流出してしまうわけですね。そして、そういったお客さんも取ろうとしたら中心市街地の活性化と、イオンの誘致もしなきゃならないという状況に追い込まれるわけです。

 

住民の異なる価値観に対応しないと隣の自治体に流れるので、自治体間競争が発生します。しかし、コンパクトシティを推進していくには、郊外から計画的に街中に撤退することが必要不可欠になってきます。そのような状況に対応するため、コンパクトシティがうまく実現できないということになってしまいます。

 

個人の権利の侵害、郊外の切り捨て

個人の権利と公共の福祉のどちらを重要視するべきかは大きなテーマですね。例えば、大規模なインフラ整備をする際、強制的に土地を買い取ることがありますが、これは公共の福祉に反しない限り、個人の権利を尊重するものの,公共の福祉に反してしまう場合には,公共の福祉を優越すると言っています。しかし、コンパクトシティ政策が、空港を作るとか港を作るという大規模インフラ整備と同列に扱っていいのかという議論や、個人の権利を奪うような政策を進めていいのかという意見も当然あります。郊外部の切り捨てについては、平等に同じ税金を納めているから、平等に投資して整備してくれと言う意見もあると思います。

 

しかし、都市部への集中投資は不公平でしょうか。例えば、街中に暮らしている人は高い家賃を払って、便利な公共交通などを享受しているわけです。一方で郊外は家賃が安く、その分公共交通が不便になります。そこでバランスが取れているはずなので、郊外の不便なところに投資しろというと、都市部から批判が出ますね。地方はいろいろな点で都市部に比べると生活費が安いわけですが、都市部、東京の人は高いお金を払って学校に通わせたりしています。都市部は便利で儲けているから、その分を地方に回せとなると都市部からすると不公平じゃないかと主張されるわけですね。

 

価値観の相違

今日、問題提起したいのは価値観の相違についてです。我々がどうあるべきかを考える際、人口増加により税収が上がり、いろんな投資が行われ、生活が格段に便利になりました。今まで通りの便利な生活をこれからも維持したいと考えるか、もしくは人口減少局面において税収が減って、行政の投資が十分にできず生活が不便になってしまう。不便になってもいいから個人の多様な価値観を尊重すべきなのか、という価値観の相違が国民の中にあるわけです。仮に、今までの便利な生活を維持すべきだと考えるならば、行政コストを圧縮して効率的な行政経営をしていかなきゃならないです。そのためには一つの有力な政策が、コンパクトシティになります。

 

しかし、行政が押し付けるようなものではなく、本来は国民や住民が選択すべきもので、私個人的には便利な生活をしたいので、コンパクトシティを進めたらいいと思っていますが、私個人の価値観からの発言です。二者択一しかないわけではないのですが、コンパクトシティが良いと思う方、またはこれまでのように自分の住みたいところで多少公共サービスが不便でも住みたいという価値観、皆さんだったらどちらがいいでしょうか?

(会場内で意見を聞いたところ、7対3程度でコンパクトシティ賛成派が多かった)

これは正解がなくて、我々が選択すべきもので、押し付けられるものじゃないですね。

 

人口減少社会にむけたまちづくりの未来

コンパクトシティは、中心市街地活性化ではないんですね。中心市街地を中心にして街中に居住を進め、郊外から計画的に撤退する政策がセットでコンパクトシティです。少子高齢化、人口減少でどのような未来を描くのか、先ほど、究極の二択をしましたが、そういう選択が迫られています。

 

コンパクトシティは、人口増加、経済成長期のまちづくりは、行政主導で規制や開発したりしてきました。どんどん人が増えて、早急に開発する必要があったので、政治家とか役所が行政指導で開発を進めていきました。当然、人口が増えて税収が上がるのでそれなりにうまくいっていたのですが、低成長で税収が落ち込んできたという事で、行政主導ではうまくいかず、民間活力を導入して街づくりを進めましょうという流れになります。

 

さらに人口が減少し、企業のみならず、住民までも巻き込んで、街づくりをしていかなきゃいけないというような状況になっています。住民がまちづくりについて主体的に考えて意見を発信していくことが求められています。

 

中心市街地の活性化

最後に、具体的に地方自治体がどういった方法で住民とのパートナーシップを作っているかをご紹介したいと思いますが、リノベーションってご存知でしょうか?中心市街地のシャッター街などを、古いビルの内装を綺麗にしてあげて、おしゃれな空間にすることで、さびれた市街地に人を呼び込むとゆう取り組みです。昔から行政主導でやっていましたが、なかなかうまくいかなかったんですね。

 

しかし、北九州市の小倉でうまくいっている事例をご紹介しますが、まちづくり会社っていう民間会社が行政の代わりを担いました。

http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000140381.pdf

 

シャッター街で地主さんは素性のわからない経営者に貸したくないわけですが、まちづくり会社と呼ばれるコンサルティング会社が仲介に入ることで,安心して商店街の地主さんが自分の資産を提供できるようになりました。民間がうまく介入することによってリノベーションが進んでいくと言う事例です。これは九州だけでなく全国的な取り組みなってまして、静岡でも去年あたりから進められ、浜松や静岡、清水でも取り組んでいます。中心市街地を活性化するという意味で、とても話題な街づくりの取組みです。

 

NPOによる地域振興

伊豆の国市のNPOサプライズの活動では、レンタルオフィスを整備してあげたりして、移住とか定住の促進をしたり、人材育成とかを通して地域コミュニティーを形成する取り組みをしています。昔は行政が主導でやっていたんですが、住民の意識が高まってきて自分たちの町の危機感を感じて、住民が乗り出して、NPOとか組織して、より効率的に、より魅力ある形で提供しているというところですね。

 

 

産学官民連携のまちづくり

草薙駅周辺まちづくり検討会議では、我々の県立大学があるエリアのまちづくりを検討しています。その組織は、大学、高校、住民や自治会、地元の商店、有力企業や公共交通機関、行政が入っています。草薙エリアとは、鉄道や住宅があり、昔から住宅街として発達していたエリアです。北口の方は今まで何もなかったところに常葉大学ができるということで駅前広場の整備や開発が進められています。また、県立大学がある南口は、昔から開発が進んでいた分、施設の老朽化が起こっています。やはりここでブラッシュアップが必要ということで、産学官民が連携して検討しているところです。

 

自分たちの大学がある草薙地区の人口減少対策という事で、交通利便性を重視する若者の居住地選択に関連して、草薙駅からちょっと離れるとバスしかなくて、そのバスの本数は少ないです。そうすると、草薙エリアの街中は非常に便利で魅力的にもかかわらず、公共交通が不便だけど家賃の安い郊外に若い人たちが出ていってしまう。

 

静岡市の目指す中心市街地への居住に繋げるには、こういった住民の声とかを吸い上げて、これからは意見集約を図っていかなきゃならないと言うことですね。

 

おわりに

最後に、人口減少社会では残念ながら多様な価値観を尊重して、その価値観を存分に満たすように投資を行うことは困難です。人口増加社会では税収が上がるので様々な価値観に対応して投資することが可能でした。ですが今後人口が減ってくると、街中と郊外へ投資することは物理的にできなくなっちゃうんですね。さらに住民が主体的に地域の目指す姿を議論し意思表示していく必要があるということです。まちづくりに関しては、長期的なスパンで計画が進行するんですね。

 

例えば、沼津鉄道高架事業に関わったことがありますが、計画が策定されたのは平成6年とかです。その後、土地収用とかの問題があって、完成予定が平成30年後半になります。計画から完成まで30年かかるという予定ですが、20年前に立案されて未だ建設も始まっていません。そのぐらいまちづくりって時間がかかるわけです。

 

仮に今の議論が実現するとなると、2.30年後に街中を謳歌している人って何歳ですかと言うとまだ産まれていません。私は40歳手前ですから30年後は70歳で、コンパクトシティの恩恵を私はぎりぎり受けられるかもしれませんが、私より上の世代にとっては関係の無い話かもしれませんね。そうすると、本来重要なのはまちづくりが実現されたとき、その街に暮らす若い世代の意見です。若い世代の意思表示というのがまちづくりの計画では非常に重要になってくるということです。

 

サイレント問題:次世代の若者へ

補足ですが、若い人の意思表示が重要ですが、都市計画でよく言われるのはサイレント問題です。何か計画が策定されると、賛成の人は意見を述べることはありませんが、反対の人は反対ですと、意志表明しますね。そうすると、見かけ上では反対派が多いですねっていうことになってしまう。自分の意見をしっかり主張しないと、賛成の人が本当は大多数なのに、黙っている限りは、主張のある反対の人の意見が通ってしまう可能性があります。

 

今、まちづくりかかわらず、政策において言えることは、若者は黙っているし、若者の問題についても、そんなに若者は意見を主張しないで、若者のための問題なのに、年寄りが議論しているということが起こっています。

 

街づくりも正しくそうで、30年後の社会で影響を受ける、現在は高校生や大学生がどうしたら良いかということを議論しないといけないですね。長期スパンの政策には、若者の積極的な参加が絶対必要不可欠です。

 

今日この会場に来ている学生は、ポジティブな方が揃っていると思うので、そういう方が増えていって、住民参加が進み、皆さんの意見がうまく集約され、望ましい街づくりが達成されるんじゃないかなと考えています。

 

講師プロフィール

静岡県立大学 経営情報学部 岸昭雄先生

静岡県立大学経営情報学部、大学院経営情報イノベーション研究科講師。
公共政策の費用対効果分析や、都市経済学をベースとした公共政策に伴う企業や家計の立地分析を専門に研究を行っている。その専門性を生かして、静岡県や県内自治体の総合計画、交通計画等の策定に関わる審議会、委員会に委員として参加し、少子高齢化、人口減少社会における地方都市の政策に関与している。

文化芸術の総合相談窓口

ふじのくに文化情報への現在の登録件数

文化団体
280
アーティスト
78
文化施設
213
個人
80

登録はこちら

ご利用ガイド

  • グランシップ
  • アトリエふじのくに
  • ふじのくにささえるチカラ
  • ふじのくに文化資源データベース
  • しずおかイーブックス

ふじのくに文化情報への登録はこちらから

静岡県文化情報総合サイト「ふじのくに文化情報」に、ご登録いただきますと、様々な形式での情報発信が可能となります。
詳しくはご利用ガイドをご覧ください。