第5回 ファンドレイジングから見えること その3
更新日時2015.10.23
今回は資金調達の具体的イメージ作りのために、ずばりアメリカの寄付の勧誘マニュアルを紹介します。読者の皆さんもご自分がファンドレイザーになった気分で読んでみてください。
1. 自己紹介
まず、自分が○○会社のプロのファンドレイザー(資金調達者)であること、芸術団体の名称、所在地を明らかにする。
2. 芸術団体のことを話題に関係を築き、芸術団体に寄付をする必要性を伝える。
<芸術団体の実績・能力>
毎年○○万人の人々が○○オーケストラのコンサートやイベントに参加している。そのうち学生は○万人を超えている。○○オーケストラは○○州で最も人気のある芸術団体となっている。
<キャンペーンの目的>
寄付が重要であることを支援者に知らせるために企画された経営努力の一環であること。このキャンペーンの目標額は○○○万ドルであること。この寄付によって○○オーケストラは芸術性を高め、世界的なオーケストラとしての地位が維持できること。さらに教育プログラムやアウトリーチプログラムによって地域の人々へのサービスを維持、拡大できること・・・。
<寄付が支えるもの>
アニュアルファンドは照明の留め具からゲストアーティストの招聘費までありとあらゆるものに使われること・・・。
<財政的必要性>
年間予算○千万ドルのうちチケットの売上だけでは40%しか賄えないこと。寄付金を集めることによってチケットの価格を手の届く範囲に抑えることが可能になること。そのためにオーケストラの芸術的水準や地域へのサービスの水準を下げずにできるありとあらゆる支出の削減をしてきたこと(楽団員の賃金凍結、管理費の削減、理事からの寄付金の増額)。これ以上削減するとオーケストラの質と教育プログラムを提供する能力が減少してしまうこと。このような資金調達キャンペーンの成功がオーケストラの生死を決めること・・・。
<芸術的効果>
○○音楽監督により○○オーケストラは素晴らしい成長を果たしていること。レコーディング作品により○○賞を受賞し、著名なアーティストを○○に招聘し、全国ネットのラジオで放送されるなどの芸術的な成功で、地域が有名になり、ビジネスマンや医学、ハイテク各界のリーダーが訪れるようになり、○○州の生活水準が確固たるものになっていること・・・。
<経済的効果>
○○オーケストラの活動により、地域に○千万ドルの経済的波及効果をもたらしていること・・・。
3. 交渉
寄付額の確認。昨年の寄付者にはさらなる増額を依頼してみる。いくらの寄付をすると特典がこれだけ増えるというように寄付意欲を引き出す(ここはファンドレイザーの腕の見せ所となる)。
4. 特典
150 ドル以上の寄付者に対してはチケットの先行予約のほか、公開リハーサルの鑑賞や有名ゲストアーティスト出席のレセプションに参加できること。250ドル以上になると情報誌への名前の掲載が追加され・・・1,500ドル以上の寄付者には音楽監督との昼食会参加や特別ラウンジの利用ができること・・・。
5. 企業の寄付金上乗せ制度
寄付の承諾者には、会社によっては従業員の寄付に応じた上乗せ制度があるので確認を勧めてみる。
6. 租税情報
法律に基づく税控除があるので、希望者には税控除領収書を送付する旨伝える。
7. 紹介とお礼
○○オーケストラに興味のある友人、知人がいないか尋ねてみる。丁寧にお礼をいう。
8. データ登録
支払はクレジットカードか小切手か。分割払いか等支援者データを登録する。
いかがだったでしょうか。
以上が寄付金の勧誘の一連の流れです。次回はこのマニュアルに含まれるエッセンスを抽出して最後のまとめにしたいと思っています。(次回11月中旬掲載予定)
プロフィール
髙橋 透 (グランシップ プロデューサー)
1982年4月、神奈川県企業庁入庁。1992年4月、神奈川県民ホール。2000年4月、県民部文化課神奈川芸術劇場開設準備担当。2010年4月、東京芸術劇場事業企画課長。2014年4月、(公財)東京都歴史文化財団事務局調整担当課長。2015年4月より現職。
1997年度文化庁芸術家在外研修員(アートマネージメント分野)。